麗澤大学 生成系AIに関するガイドライン(教員向け)

生成系AIに関する教員向けガイドライン
ー 生成系AIを理解し、適切に教学面に活用する

麗澤大学副学長(教育担当) 渡邊信
情報・データサイエンス教育センター長 吉田健一郎
令和5年7月24日制定
令和7年4月1日最近改正

 生成系AI(ChatGPT、StableDiffusion、Geminiなど)の能力が飛躍的に向上し、人間が執筆したものと遜色ない言語処理や画像生成能力に大きな注目が集まり、今後の発展に大きな期待が寄せられていることは周知の通りです。そして、教育と学習のあり方に関して光と影の両面があることへの懸念や不安が高まっています。そこで、本ガイドラインでは生成系AIとしてよく使われている大規模言語モデル(LLM)の代表例であるChatGPTの活用を具体例として、本学教員がどのように対応すべきかを考えるためのリファレンスとして作成しました。
 なお、本ガイドラインはChatGPTを教員自身が実際に利用したことがある前提で作成しています。

 

(1)大学における教育・研究におけるAIツールの基本的な考え方

  • AIツールが与える教育への光と影を知る
    【光の側面】
    ・ AIツールは個々の学生の学習進行度や理解度に応じてカスタマイズされた教材を提供することが可能になります。これにより、個々の学生が自分自身のペースで学習を進められるようになります。
    ・ AIは授業の運営や学生の学習支援を効率化することが可能です。例えば、授業の内容を自動的に要約したり、学生の理解度をチェックするなどのタスクを自動化することができます。AIが一部の教授業務を担当することで、教員の役割は知識の伝授者から、より多くの時間とエネルギーを学生の個別のニーズに対応するファシリテーターに移行する可能性があります。
    【影の側面】
    ・教員は学生がAIを用いて作成したレポートや論文を適切に評価し、その信頼性や適用性を判断する必要があります。これには、次のようなAIの機能と限界を理解し、それを教育的文脈で評価する能力が求められます。
    ・ ChatGPTの提供する情報は必ずしも正確とは限らず、批判的な視点を欠いたままその回答を受け入れてしまうと、間違った知識を学んでしまう可能性があります。
    ・ また、ChatGPTに過度に依存してしまうと、小論文やレポート作成を通じて獲得すべきスキルや知識(例えば、思考力やライティングスキルなど)の育成が阻害される可能性があります。


  • 課題について、これまで以上に目的やAIツール利用可否を学生に伝える
     学生に課題を出す際には、その目的を明確に説明することが重要です。また、課題を解決するためにAIツールを使用できるかどうかを明示しましょう。この透明性は、学生が自身の学習目標と課題の目的を理解し、どのようなアプローチが適切かを判断するために必要です。
     AIツールの利用を推奨する場合、それがどのように課題解決に役立つか、または学生の学習を深めるかを説明することも有効です。例えば、大規模なデータセットからの情報抽出など、AIツールが明らかに優れている分野では、その使用を奨励することで、学生は効率的に情報を収集し、解析する方法を学べます。この時、AIツールを利用したことを学生に明示させる方法について共有しておくことが望ましいでしょう。
     一方、AIツールの使用を禁止または制限する場合、その理由と目的も共有することが重要です。たとえば、批判的思考や論理的推論を鍛えるためのエッセイライティングでは、AIの支援を受けずに自己の視点を練り上げることが重要かもしれません。

  • 課題の内容を再検討する
     学生が自力で解決すべき課題と、AIを使用して解決できる課題との間で、再調整が必要になることがあります。その際に重要となるのは、教育の目的を見失わず、どのような知識やスキルを学生に身につけさせたいのかという視点から、課題の設定を再考することです。
     例えば、複雑な計算を必要とする数学の問題を解くスキルを学生に身につけさせたい場合、その全過程をAIに依存せず、手計算による解決方法も同時に学ぶように指導することが重要です。AIが結果を即座に出すことで計算力が育たない可能性があるからです。
     一方で、大量の情報から必要なデータを探し出すといった課題では、AIツールの活用が有効です。これにより、情報検索やデータ分析のスキル、またAIツールの操作方法などを学ぶことが可能になります。
     加えて、AIツールの利用自体が目的となる場合もあります。それはAIが社会生活のあらゆる分野で利用されている現代において、AIを理解し、適切に使用できる能力が求められるからです。そのためにも、AIツールを活用しながら、その限界や可能性を理解し、批判的に考える力を育てる課題が必要となるでしょう。

  • 成績評価を再検討する
     成績評価方法の再考が不可欠となっています。これまでの評価基準が一部では知識の単なる蓄積と再生に焦点を当てていたのに対し、今後はAIツールを利用した問題解決能力へと視点をシフトさせるべきです。この新たな評価基準は、学生が自身でどのように情報を調査し、それをどのように分析し、また、それをどのように活用して具体的な問題を解決するか、といったプロセスを見ることになります。
     さらに、AIツールの利用はそのまま評価の対象となるだけでなく、その結果をどのように扱うかも評価の要素となります。つまり、学生がAIから得られた結果を適切に解釈し、その信憑性を批判的に評価し、最終的な結論を導き出す能力も重視するべきです。
     また、全てをAIツールに頼るのではなく、自らの思考力を試す機会も必要です。そのため、対面のテストでの評価割合を高めることも一つの解決策となりえます。これにより、AIが提供する情報を使用せずに独自の思考を通じて問題解決を試みる機会を設けることができます。これは、AIツールがない状況での対応力も評価するための重要な手段です。
     これらの取り組みを通じて、より現実的で多角的な成績評価を行うことが可能となり、学生一人ひとりの学習プロセスと能力をより公正に評価することができます。

 

(2)学部内での議論を通して、カスタマイズしていく

 本ガイドラインはあくまで一般的な参考のためのものであり、各学部、各教員の授業内容や教育目標によってAIツールの使用方法や評価基準は大きく異なります。したがって、このガイドラインを基に、各学部や教員が自身の授業の特性や学生の需要を考慮してカスタマイズすることが強く推奨されます。
 このカスタマイズのプロセスでは、授業の目的や学生の能力を最大限引き出すための教育方法を模索し、その中でどのようにAIツールを活用すべきかを考えることが必要となります。また、AIツールの活用だけでなく、その適切な使用方法や限界についての理解を学生に教えることも重要な役割となります。